窪田織物はものつくりの会社です。
職人の育成と技術の伝承・発展に力を入れています。
窪田織物は、2008年に製造方法の特許を出願、取得しました。
窪田織物が開発したのは、大島紬独特の単位で「24算(よみ)15マルキ」と表現される製品です。「算」は紬のたて糸の密度、「マルキ」は絣の精密さにつながるかすり糸の本数を表します。1マルキ80本、開発した反物は一般の反物の倍以上になります。
現在の製品は13算や15.5算、5〜9マルキが中心になっています。
一般的に数字が大きいほど糸は細くなり、手間がかかる上、熟練した技術が必要です。一方で製品は羽毛の様に軽く肌触りがよく、より精密な柄の表現が可能になります。
たて糸が多いために難しくなる横糸を入れる技術を確立しました。
横糸を通すためにたて糸を上下に広げる「綜絖」(そうこう)という部分を1組から2組に増やし、織る技術です。
さまざまな糸を特注して試し、各製造工程で試行錯誤を重ねてきました。
名称は価値が計れないほど高級という意味で「無価優粋大島紬」と名付けました。
2年後の2011年には「32算18マルキ」の製品を開発しました。
Kubota Orimono’s Oshima Tsumugi
「世界最小絣」本場大島紬 32算 18マルキ
“無価優粋大島紬”
※「算」(よみ)…全ての糸の数
計画発表から5年「やるぞ」と心に決めてからスタッフを結成、今日まで長い道のりでした。
まず、失敗しそ うな問題点などを想定してピックアップすることから始まり、ありとあらゆる方法を考え、クリアしていきます。
それは図案から織り迄40工程以上あり、気の休まらない日々でした。
第一に我社の特徴として、高い技術を発揮できる多数の職人さん達を生かすため、人選から進めて行きました。
図案に始まり整糸・染色・締・加工・織りのチームを作りました。
図案はどんな柄・色構成で表現するか。また製作過程で失敗のない図案にするなど、みんなで考え約6ヶ月かけて完成させました。
次に、糸が細くなるため強度・やわらかさ・色合いなどを慎重に検討しました。
そして締は糸の細さで力の配分や、間を空けると締の強弱が出過ぎるため席を立てないなど、苦労ばかりでした。
加工に入ると、糸の細さがもう目に入らないくらいに色を塗るのに困難を極め、通常1ヶ月半くらいの作業を4ヶ月もかかってしまいました。
最終段階の織り。もし織ることができなければ今までの苦労が水の泡です。
前準備を念入りに、議論をし尽くし織りに入りました。
アゼが開かない、織りヒ(緯糸のシャトル)が通らない、絣が見えないなど苦労の連続でした。絣の0.01mmを見つめる目は精神力だけでは通用せず、充血して痛々しい限りでした。
そのために1日にわずか3~4cm程しか織ることができません。
だめでも仕方のない挑戦でしたが、成功を目指してひたすら各職人さんをサポートし続けました。
糸の密度・絣の細さなどから見ても「世界最小絣」の織物。
織りあがりには全員が集まり、その時は喜びよりも先に安堵のため息が出ました。
持ってみるとふわりとした感触で、いい品は軽いと言いますがそれは本当だと実感しました。
そして価値を計ることができぬほどの大島紬という意味を込めて「無価優粋大島紬」と命名しました。
誰でもは作れない、誰でもは織れない技術、完成までに至った職人の本能が宿っています。
平成20年12月
監督 窪田 優粋
図案 山野 哲次
整糸 松本 久明
染色 窪田 政幸
締め 竹山 南海男
加工 安田 清信
織り 竹山 南海男
18マルキ(開発時より後年に織ったもの)
パリに渡った窪田織物の大島紬
2022年8月、惜しくも逝去されました世界的デザイナー森英恵さん。
先代社長が森英恵さんの事務所に伺った際、持参した大島紬を気に入ってくださり、2000年のパリのショーで女性用スーツとして発表されたことがあります。
着物とはまた違う華やかなフリルの袖口、洗練されたシルエットは大島紬の可能性を示唆してくれました。
そのスーツは今でも大切に窪田織物で保管しております。
一般的によく知られている大島紬の染め方、 泥染め
使用する染料はテーチ木(車輪梅シャリンバイ)
幹材を刻んで熱煎し煎液を取り、染色します。樹皮や小枝では赤みが少なく、幹材の場合は赤みの多い色合いになります。
一度テーチ木で染めた糸を、鉄分を多く含む泥田で染めることで、テーチ木染料に含まれるタンニン酸色素と鉄分が化合し、風合いある黒茶色に染まります。
このテーチ木染め、泥田染めを20回ほど繰り返すことで、科学染料では出せない色に、染めることが出来るのです。
始まりは諸説ありますが、一説によると草木染を田んぼに置き忘れて翌日見てみたら手触りの良いものになっていたとか…!
屋久杉染め
自然保護上伐採が限られている中、特別に断片を入手し、数十時間煮沸騰した液で真綿糸や数種の糸を染め上げ、媒染し発色させてあります。これら数種の糸を屋久杉の雰囲気が生きるように織り込みました。
屋久杉染めの特徴
・虫がつかない ・腐らない ・水に強い ・アロマ効果
屋久島
鹿児島市から南西に133km
黒潮踊る太平洋上にある、周囲105kmの丸い島
面積77%は国有林
世界遺産
正式名称は「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」
1972年11月、ユネスコ総会において採択
1992年に日本が批准
政府は文化遺産として法隆寺・姫路城を、自然遺産として白神山地と屋久島を1992年に批准し、1993年に認められ、登録された。
屋久杉
屋久島では樹齢1000年以上を屋久杉、それ以下を小杉といいます。標高700mから1400mの間に分布。
固有名を持つ屋久杉や、樹齢3000年を超えるものも多数あります。
縄文杉、紀元杉、母子杉、千年杉、天柱杉と呼ばれるものも。縄文杉は推測樹齢7200年と言われ根回り43m、胸高囲16.1mあり、世界最大の杉です。
紫いも染め
鹿児島ならではの紫いもを使った、品のある紫いも染め
紫の色は昔から、ローマ帝国の衣服や冠位十二階の最高位の色、僧侶の最高位の色など畏敬の色として用いられてきました。
大人な雰囲気と着こなししやすい色が好まれています。
紫いもはポリフェノールの一種であるアントシアニンを含み、切るといもの肉色が紫色の品種のさつまいものことを指します。
紫いもの特徴は、普通の品種より機能性が高いことです。
近年では、肝機能の向上や血圧降下促進の作用があるなど、健康面に良いということで、紫色の食物が人気を呼び、その中でも紫いもはさつまいも伝来300年ということもあり、特に注目されています。
世界遺産でもある屋久島で育った紫いもを取り寄せて使用しています。
自然豊かな世界遺産屋久島の紫いもは特に色合いが美しく、特殊な抽出方法を用いて染めると肌合いも優しくなります。
紫いも染め大島紬はランクアップした地風、洗練された配色を楽しめます。
アントシアニン…ロドプシンの再合成を促進させて、疲れ目の予防・改善・視力回復の他、毛細血管の活性化・保護・強化及び強力な抗酸化作用があります。
アロマ効果のある月桃(げっとう)を用いたさねん染め
淡いピンク色が特徴で、若い女性に人気です。
さねんを使用して染め、織りあげた大島紬。優しい色合いがお楽しみいただける大島紬に仕上がっております。
月桃は花ではなく、葉から安らぎを与える甘い香りが出ます。
防虫効果もあり、月桃の間に虫食いのあとはほとんど見られません。
最近では幾何学的に描いたバラや可愛い小さな花の柄が織られています。
月桃(げっとう)
月桃はショウガ科の植物で別名サンニンと呼ばれ、沖縄や台湾をはじめとする亜熱帯に生息しており、古くから防虫・防カビ・防腐・殺菌などに利用され重宝されています。
その他にも種は咳止め・整腸薬、茎は繊維が非常に強いので、さとうきびを縛る縄として利用されてきました。
月桃は沖縄では昔から、葉を餅(方言でムーチー)の包装材に、種子を健胃薬や鎮吐薬として漢方に用いられてきました。
正藍染め
正藍染めは一般的に藍染と呼ばれています。
「タデ食う虫もすきずき」のタデから抽出された染料で染めたもので、染めの種類では一番有名と言っても過言ではありません。
藍には殺菌効果や鎮静効果、などがあります。他にも肌荒れや冷え性を防ぐなど。本藍や正藍染めインド藍などがあり、それぞれ違った味わいを醸しだしています。使い込むほど風合いがでてきます。
白正藍染め
その正藍染めをちょっとひねって製造したのが白正藍です。
色柄の多様化、幅広い彩が求められ、その中で誕生した白正藍の大島紬。藍の良さ、白大島の良さを余すことなく表現した感性溢れる大島紬です。幾千年にもわたる長い歴史の中で、世界中で栽培され染められた藍。
人々が手で育て染め上げ伝承してきたこの日本の心の色を、素材を時をかけ、季節を経た中に白正藍大島紬として誕生させました。
清楚な雰囲気で、暑い季節には涼しさを演出します。